気の抜けた観劇レポート ストゥーパ〜新卒塔婆小町〜 04/21
先日、友人のお誘い(正確には友人のお父さんのお誘い。ありがとうございました)で「INNOVATION OPERA ストゥーパ〜新卒塔婆小町〜」に出かけた。
晴れて気持ちのよい上野の、東京文化会館大ホール。
指揮者の西本智実氏が、芸術監督、指揮、脚本、作曲補と、とにかくこれは彼女の公演だった。
西本さんは、男社会のクラシック指揮者の世界に飛び込んで、いろいろあったのではと勝手に思っている。
かなり、カッコイイ路線になられていたからだ。最初は、宝塚美人という感じだったが、服装も男性指揮者のように、黒のシャツ、パンツスタイル。
そして、クラシック音楽会の指揮をする時は西本さんの名前で売れるし、ファンは確実についているし(友人のお父さんしかり)、本人も好きなことをしていこうと思ったのかな、と思う。
とにかく、プロの方が新しいことをすると、技術が完全体なので説得力が半端ない。
西本さんが、おのうの「卒都婆小町」をテーマに選んできたのもとてつもなく渋い。
(ちなみにおのうは「都」と書いて卒都婆小町、理由は調べていないのでよくわからない。この公演は一貫して卒「塔」婆小町。そとば、と言ったら卒塔婆と書くので間違っているわけではない、副題もストゥーパだし。念のため。)
昼夜公演の、昼の回。客席は満席。もちろん夜公演も満席だろう。
キャストに、ジャニーズの中山優馬氏がいたため、客席は優馬ファンで溢れかえっていた。
ジャニーズのファンの方々は基本的に女子、舞台観劇には皆さん素敵にオシャレをして来ていて、茶髪が多く、なんというか同じテイストなので、なんとなくわかる。
なぜわかるかと言うと、お誘いいただいて何度かジャニーズの舞台を観に行っているから。
ジャニーズエンタテインメントのファン層が卒都婆小町を観るという、ふつうではあり得ない状況に、個人的にはいちばん興味をそそられた。
舞台は、背景に薄い幕をおろし、その奥にオケとコーラスがいた。手前の舞台は役者さんの夢の領域。
そしてやはり、小町の嘆きは、西洋風で、コーラスが重々しく歌う。
なんだか壮大。
やはりオケとおのうの違いは、いちばんはここ…感情を盛り上げどんどん大勢で発してしまう表現と、どんどん盛り下げ(そもそも盛り上げない)無言でホンの少し顔を俯けて泣くだけの、究極のミニマム表現との違い、と思った。
完全に作り込まれた舞台、観客は基本的に受け止めるだけでいいんだなと思った。
逆に、こちらの感情は、舞台に入り込むことはできない。
そして、舞台とは受け止めるものとみんな思っているよね、と改めて感じた。
とにかく、どんどんごりごり訴えてくる。
あーー究極の美人、小町! でもいまは老婆!
あなたは罪を犯した、深草少将は死んだのだ! 99日訪問し、死んだのだ! あと、1日だったのに!!!
それをさせたのは、小町、あなたの罪!!!!!
…これを書いているだけで脳にちからが入って疲れる。
表現を、受け止めることが観客の仕事。西本さんが作った舞台として、観る。
正直、卒都婆小町かどうかは、どうでもいいことでもあった。
西本さんが新しいことにチャレンジし、新しい表現を模索していることが、この公演の重要なところだった。それとキャストの方々の力強い演技。
でも、ちょっと舞台と客席との間に見えない壁を感じた。
舞台は舞台人のもの、になってしまうのかな。観客は、ほんとうにそれで満足なのだろうか。
観客が主体となって、思いを投影して入り込んでいくおのうの観劇スタイルは、やっぱりいまの時代、とても特殊なのだ。
年末、日本人だけがなぜあんなに第九コンサートいっぺんとうになるのかよくわからないのだが、西洋のどんどんごりごり来る盛り上げ表現を多くの人が求めているのはたしか。
今年のすべての悪いことを清算して、新しい年を迎えるために、第九の発散力が必要なのかもしれない。半分宗教儀式のようになっている。
大勢で、大声で、歌い続けないと、清算できないほどの罪があったのかは、知らない。
私は、大晦日はすき焼きを食べながら紅白で充分だ。盛り上げて新年を迎えるよりは、ゆく年くる年で静かに新年を迎えたい。
それでも大学生の時までは、ジャニーズ年越しライブをテレビで見ていたので、その辺りは年齢によって求めるものが違うのだろう。
そういう、いろいろな選択肢の中に、今後はふつうにおのうが入ってくるといいな、と思った。
終わってから恐縮なことに友人のお父さんお母さんオススメの牛肉弁当をいただいた。
晴れていたのでそのまま友人と広場の方へ移動して、お弁当を広げる。
肉が、すごい厚みだった。噛んでいると、生きていると実感する肉だった。想像もできないが、そのうち、どんなに元気でもお肉が噛めないのどを通らない日がやって来る。
小町もきっと、年をとるなんて想像もつかなかったんだろうと思った。
ハトが寄ってきたけど、肉はだめ、と言って、あげなかった。