イベントレポート 宝生能楽堂weekendMUSEUM 4/21・22
さる4月の21・22日、宝生能楽堂weekendMUSEUM(サブタイトルは、歴史に浸るひととき)に参加した。
内容は、能面・能装束・中啓(ちゅうけい、扇)の展示、宝生和英宗家の講座。
また、楽屋から鏡の間、能舞台上まで案内してくれるバックヤードツアーも参加できるという、新しい試みのイベント。
宝生流の宗家はいま31歳で宗家としてはあり得ない若さ、しかもそれを圧して余りある考えで新しいことをいろいろとチャレンジしている活動的な人だ。
イベント開催理由は、宗家曰く「土日が空いていたので」。
それだけで新しい企画を実行する。休むという選択はないらしい。
私は物販でお手伝いさせていただいたのだが、能楽堂の良さ、それも宝生能楽堂の静けさを改めて実感した。
イベントは11時から18時で、かなりの人数がバックヤードツアーにいらしていた。
その間ロビーにいて、時々戻って来た人と話しながら物販をする。
ほかは、しんとして静かだ。
思わず声をひそめてしまうような、不思議な静けさ。
バックヤードツアーを終えて、年代物の装束と能面を眺めたら、静かに座ってくつろげる。こんなに良い環境はない。
能楽堂におのうを観に来るのは美術館へ行くのに近い、というのが宗家の説なので、だから今回の企画が発案されたと思う。
おのうはエンタメではない、心を静めてくれるもの。
こんなに静かな場所が都会の真ん中にあるのは知られていないだろう。
一歩外に出ると、大通りをはさんで目の前に旧後楽園ゆうえんち(東京ドームシティアトラクションズ)があり、人々の楽しそうな叫び声が聞こえて来る。
興奮と静けさ、どちらもある、というのが水道橋の良さかも知れない。
土曜日は講座が3本の予定だった。3本も誰が話すのだろうと思っていたら、宗家ご自身だった。
あれ、宗家はさっき開場時のバックヤードツアーもやっていなかったっけ…と物販のグッズデザイナーと話していたが、どうも11時のバックヤードツアーを案内し、終わって直後12時からの講座「能楽を楽しむ、とっておきの方法」を能舞台で話し始めたらしい。
まさかこのスケジューリングは、全部宗家がやるつもりなのでは…いやいや内弟子さんたちもいるし…と言っていたら、そのまさかだった。
11時バックヤードツアー、12時講座、13時バックヤードツアー、14時バックヤードツアー、15時講座「体と心のための能楽」、16時バックヤードツアー、17時講座「世界とつながる能楽」、18時最終のバックヤードツアー。
17時の講座では宗家も、さすがに息切れしています、と言って笑いを取っていた。
全力投球という言葉は、彼のような人のためにあるのだろう。
お手伝い要員の特権で、最終のバックヤードツアーを拝見させていただけることになった。
もちろん宗家ご案内である。(どうも、ディズニーランドのジャングルクルーズのいいところを取り入れようとしていたようだ。宗家はディズニーオタクでもある。)
あんなにフル稼動だったのに疲れは一切見せず、隅々まで説明いただく。
なんと鏡の間や、能舞台へも(もちろん足袋着用)案内してくださった。
ふつう能舞台には上がれない。「場所のちから」のあるところだからだ。やたらと人が出入りし、踏み歩くところではない。
鏡の間から能舞台の間は緊張はなはだしく、写真も可だったのにほぼ何も撮れなかった。
自然と全員が緊張してしまう、というすごい空間だった。
能舞台へ出る時は他の参加していた方々も、緊張する!とおっしゃっていたのだが、宗家は、同僚に会いに行くような気持ちで、と言っていたのが印象的だった。
能舞台の上を、そっと歩く。
緊張でガチガチになってしまわないよう、息はゆっくり深く。波に乗るように、タイミングを見計らって「お幕」と言います、と宗家は教えてくれた。
ほかにもたくさん面白いお話が聞けたが、それは紹介しない。イベントに参加して聞いた方がいい。
日曜は宗家が地方へ仕事に出ていたので、内弟子さんたちがバックヤードツアーをされていた。
宝生流には、内弟子制度が残っている。内弟子のみなさんは宝生能楽堂の上に住んで、日々おのうを勉強されている。
下に降りてきたら能舞台があって、いつでも空いている時間お稽古が出来る、というのは特権中の特権だろう。みなさん男子校ふうにまとまっていて、もちろんお稽古は厳しいことばかりだろうが、連体感があって面白かった。
そういえばNHKのサラメシという番組で、宝生流の内弟子カレーが紹介されていた。
次回のweekendMUSEUMは、ロビーをカフェふうにして、内弟子カレーと、コーヒーがいただけて、のんびりできたら最高だな、と思った。
仕切りがないのが能楽堂の楽屋の特徴。
「お幕」で能舞台へ
天狗の装束。髪は白い毛が混じる珍しいもの。