ノーノーノーライフ(No Noh,No Life)

能狂言のこと、伝統芸能のこと、観劇レポートなどをかきます。15歳ころ能楽に出逢う。多摩美術大学芸術学科卒。12年間伝統芸能の専用劇場に勤務。スペースオフィスというユニットで能狂言グッズなど作っています。Twitter@ofispace

2018-01-01から1年間の記事一覧

ネクタイと仮面

前の職場でネクタイをしていた。 私は一応女なのでしなくてよかったのだが、新しい職場でスーツを着るようになり、スーツだけだとつまらないのでいつしかネクタイをするようになった。 剣先が小さめのものを選び、自転車や深海魚やドラえもんの刺繍のものを…

コスプレと杜若の精_2

(1からの続き) 身にまとうということ。 原始のおそらくは暖を取るなどの必須アイテムという位置付けから、はるか時は過ぎ人間に自我が芽生えて、あるいは自我が膨らんで以降であろうか。身にまとうという行為で社会の立場や所属も表すようになり、まとう…

コスプレと杜若の精_1

10月も末の頃、初めてコスプレをしてネズミ王国を歩いた。 ネズミ王国とは千葉県浦安市の遠浅を埋め立てて作られた海沿いにあるエンタテインメント施設のことで、個人的に日本のそこは半分宗教がかってきているなあと思うのでそう呼んでいる。批判者ではなく…

出逢い_2

(1からの続き) 福を授けるカミサマはえてして唐突に現れる。それは昔話、民話などで突然の福を授かるというお話として残る。 ここ掘れワンワンの花咲か爺。浦島太郎。舌切り雀。などなど。 花咲か爺は、拾った犬が思わぬ恩返しをしてくれる(意地悪な隣人…

出逢い_1

夜の暗闇の中、20歩ほどの距離の家の前の小道の途中で、ガサッとなにかが草むらに逃げた。 2日後、昼間は曇りで、その小道の脇にはガマガエルがどすっと座っていた。 ああこの子があの夜の…と思い見つめる。突然しゅっとカエルの前の草が揺れる。虫を食べた…

儀式と共振について

友人が結婚した。大学時代からの親しい友だちだった。 と言ってももうよく考えたら私たちはアラフォーに手が届くような年齢で(35歳)、もう世間一般で言ういわゆるおばさん世代に突入していくらしいのだと、 言葉で思っても、自分自身は中学高校生あたりか…

観劇レポート 宝生流能楽公演「和の会」最終回・7/28能「七人猩々」

7月28日「和の会」最終公演におじゃました。台風直撃が心配される中、物販コーナーの売り子のお手伝いをする。 和の会は宝生宗家が年に1回、毎年続けたご自身のお能公演で、宗家にとってはいろいろとチャレンジできる機会でもあり、だが10年経った今年で最…

物狂い_2

(1からの続き) ここに書くのはただの思いつきです。 神様を「降ろす」と言うが、そうではなく本当は、神がかりとは、降ろしている人の心の奥の奥から出てきた「誰か」の声なのではないか、と思ったりする。 ユングの心理学では普遍的無意識が提唱された。…

物狂い_1

やっと宇多田ヒカルのアルバム「初恋」を手に入れたのだが、「パクチーパクパク」が頭から離れない。タイトルはそのまま「パクチーの唄」。 最初聞いたときは、「えっパクチーパクパク? 狂ってる」と思い、二度目に聞いたときは、「いやそうでもないか、ふ…

杜若、業平という紫色をまとったアイドル

友人の結婚式が近いので袱紗(ふくさ)の確認をしていたところ、紫色の袱紗は、慶弔どちらにも使えるという。 他の色の袱紗は主に暖色系が慶事、寒色系が弔事と配分されていて、片方のシーンでしか使えない。 紫は、紫草の根で染めた色という意味で紫と呼ば…

絃上、最強の音楽オタクの集い

梅雨入りした。梅雨らしい雨が、しとしと降ったり止んだりしている。 気候変動でスコールのような土砂降りの雨が増えたのは気のせいではないだろう。ああいう雨は、不安になり、早く止んでくれと願うだけ。 しとしとの雨は、アンニュイな気分になり、いつま…

松風、双子姉妹の心のゆくえ

妹がひとりいる。隣の駅に住んでいて徒歩圏内なのだが年に一度くらいしか会わない。仲が悪いわけではなく、むしろ良い方だと思う。 彼女はどこまでも平等で、典型的な丑年生まれのため、亥年の私をのんびりかわしてくれる。 妹の存在とは別に、双子に生まれ…

黒塚、人を嫌わざるを得なかった美女

銭湯にちょこちょこ通っている。水が多いところというのは、気の巡りがとても良い気がする。 その銭湯で、ハーフかわからないが成長したら東洋美女になるであろう風情の少女がいた。 私は出てきたところで、彼女はこれから入るところ。隣には日本人の、お母…

俊寛、なぜ自分だけが

いぜん宿泊先で、15分過ぎてチェックアウトしたら無料の送迎バスがもうなく、駅に行くバスは…と受付の女性に聞いた。 女性は何かにものすごくいらだっているようだった。 バス停までの道順を教えてくれたが、なぜか一言も頭に入らず、聞き返すのも怖かったの…

海人、強くて哀しい母

となりのアパートの1階に赤ちゃんがいるのは、時々泣いている声が微かに窓越しに聞こえるので知っていた。 窓から漏れ聞こえてくる音にはお母さんとお父さんの優しいくぐもった声もある。状況を察するに、どうも、赤ちゃん、お母さんがほんのちょっと(例え…

葵上、六条御息所の鬼_3

(2の続き) おそらく後場の御息所は、アイデンティティも人間の心も失って登場する。 それは御息所だろうか。それとも違う人なのか。 女性は変化する。それは、もとよりそういう性質を持っていたということだろうか。 御息所を呼び出した巫女。古来より神…

葵上、六条御息所の鬼_2

(1の続き) どうして女性ばかりが変化してしまうのか。 その前に、般若の面相に変わってしまう要因とはなんだろう。 怒りの感情であろうと思っていた。「鬼のようだ」と形容するとき、それは般若の顔に近い怒りの形相を指す。 おのうに話を移す。 変化した…

葵上、六条御息所の鬼_1

鬼をはじめて観たのはおのうの「道成寺」だった。 落ちた鐘の中から、のそっと出てきた清姫は、口が裂けツノが生えた恐ろしい面に変わっていた。 その次に鬼を知ったのは、本の中だった。 梨木香歩さんの著書『からくりからくさ』に、その鬼は出てきた。 平…

江口、遊女という職業そして菩薩_2

(1の続き) それまで芸能民などの死や神仏や生殖にかかわる「聖なるちから」に通ずる技を持った職業人には称号が与えられ、天皇や神の直属民として特権を保証されていた。 当時の遊女も芸能者であり、また性の技術も合わせ持っていた。 それまでの天皇はそ…

江口、遊女という職業そして菩薩_1

水曜日は、レディースデー。 映画館の割引の話だが、働き出してここ10年位さっぱり忘れていた。 なぜ女性だけ割引なのだろう、と思ってちらと調べてみると「女性の口コミの力」を見込んで始まったことらしい。 セールに敏感なのも女性。だから何らかの割引な…

気の抜けた映画レポート、バーフバリとリメンバーミーの循環について

文化的な衝撃を受けた。 映画「バーフバリ王の帰還(2)」を見た約2時間、いろいろあったので書き残すことにした。 まず文化的な衝撃を食らった、というのは構成が何もかも知っている映画とは違ったからだ。いままで知っている「映画」とは欧米文化であっ…

観劇レポート 宝生流企画公演・夜能「巴」4/27

4月27日、金曜の夜おのうの公演に行った。 宝生能楽堂なので水道橋駅から小走りで3分程度、ぎりぎりに到着する。客席に入ると正面席はほぼ満員。友人が取ってくれていた脇正面席に収まる。 この「夜能(やのう)」は今年1月から始まった企画公演らしい。 …

イベントレポート 宝生能楽堂weekendMUSEUM 4/21・22

さる4月の21・22日、宝生能楽堂weekendMUSEUM(サブタイトルは、歴史に浸るひととき)に参加した。 内容は、能面・能装束・中啓(ちゅうけい、扇)の展示、宝生和英宗家の講座。 また、楽屋から鏡の間、能舞台上まで案内してくれるバックヤードツアーも参加…

面_2

(1の続き) 顔が隠れることによって、違う裏の顔が出てくる。 本来の顔を隠す女性の化粧について、以下は妄想及び想像。 高貴な女性たちの習慣であった白塗り、お歯黒、眉書き…これらは本来の自分の顔を消す。 そうして、一種の「貴族アイコン」とも言える…

面_1

面と書いて、おのうでは「おもて」と読む。仮面とは言わない。 表裏の、おもて、は基本語尾が上がるが、面の、おもて、は語尾が下がる。 面をつける、ではなく「かける」と言う。 つける、は、面を、もの扱いしている。だから違う。そういうことだと思う。 …

眠る

ずいぶん昼寝した。夢を見たが覚えていない。 おのうも眠い。眠いといえば、おのう。 おのうを観ながら寝てしまった、と苦笑いしながら報告する人は多い。 大丈夫、私もよく船漕いでる、と返していた。 眠くなるのは、仕方ない。謡の抑揚と、囃子のリズムが…

土蜘蛛、哀しい存在が語りかけること_2

(1からの続き) 土蜘蛛の精は、頼光の家来たちと戦う時に、能舞台で蜘蛛の糸をまく。 この蜘蛛の糸は紙でできており、当たり前だが手作りで、シテがふわりと投げると、とても美しく弧を描いてさあっと開き、落ちる。 虫の方の蜘蛛の糸は、家の内では古い象…

土蜘蛛、哀しい存在が語りかけること_1

洗濯物を干していたら、欄干の角に、小さな蜘蛛がうすく巣を作って留まっていた。 顔を近づけるが、赤茶色の本人はすまして知らんぷりしている。 うーん、と一瞬悩んだが、洗濯物が干せなくなるのも困るので、適当な紙を持ってきて、すくうようにして巣をは…

恋重荷、タイトルからつらい

なんというか、恋愛というのがうまくいかない同級が多い。 みな、興味があるし、寂しいし、今後を考えても、ひとりじゃあねえ、と言う。 おひとりさまになる覚悟をしている人は、この30代の世代、ひとりもいない。 でも現状、なかなか相手に巡り会えない。自…

気の抜けた観劇レポート ストゥーパ〜新卒塔婆小町〜 04/21

先日、友人のお誘い(正確には友人のお父さんのお誘い。ありがとうございました)で「INNOVATION OPERA ストゥーパ〜新卒塔婆小町〜」に出かけた。 晴れて気持ちのよい上野の、東京文化会館大ホール。 指揮者の西本智実氏が、芸術監督、指揮、脚本、作曲補と…